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『Between the World and Me』

2015.11.14.Sat.00:15
アメリカでベストセラーになった本らしいのですが、翻訳されてないので読めません・・・。 (´Д`) 「Newsweek ニューズウィーク日本版」 に掲載されている渡辺由佳里 さんの 「ベストセラーからアメリカを読む」 というコラムより。


白人が作った「自由と平等の国」で黒人として生きるということ (2015年11月11日)

 Ta-Nehisi Coates (タネヒシ・コーテス) は、犯罪と暴力が日常茶飯事のメリーランド州ボルチモアで生まれ育ち、ワシントンのハワード大学を中退した後、由緒ある月刊誌 The Atlantic で政治・社会論評の記事を執筆するようになった珍しい経歴の黒人ライターだ。 (筆者注:アメリカではBlackのかわりにAfrican Americanと呼ぶのが政治的に正しいという人もいるだろうが、著者自身がBlackと使っているので、ここでも「黒人」という表現を使わせていただく)

 人種問題の改善策についてオバマ大統領とは異なる見解を持ち(ここで紹介する本に彼の意見が詳しく書かれている)、アメリカでの黒人差別を語る上で最も重要なライターのひとりとみなされている。

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『Between the World and Me』 は、1963年に刊行された 『The Fire Next Time』 からインスピレーションを得た Coates が、14歳の息子に語りかける形を取ったエッセイだ。 The Fire Next Time は、黒人作家 James Baldwin が、14歳の甥に向けて書いたエッセイであり、1960年代に人種問題を掘り下げて書いた本として知られている。

 ふつうの読者は、「アメリカ人の父が息子に与える言葉」 というと、「アメリカは誰にでも機会を与える素晴らしい国」 だから、「大きな夢を持て」 という内容を予想するだろう。

 だが、この本は全く逆なのだ。

 Coates は、アメリカに存在する夢のことを、「美しい芝生がある完璧な家、メモリアルデー (戦没将兵追悼記念日 )に隣人が仲良く前庭に集うバーベキューパーティ、ツリーハウス とカブスカウト、ペパーミントの香りがして苺のショートケーキの味がするもの・・・(It is perfect houses with nice lawns. It is Memorial Day cookouts, block associations, and driveways. The Dream is treehouses and the Cub Scouts. The Dream smells like peppermint but tastes like strawberry shortcake.)」 と表現する。そして、彼自身がこの夢に逃避していたかったと告白する。

 だが、それは自分たち黒人には不可能なのだと Coates は息子に語りかける。 なぜなら、祖国アメリカは黒人を犠牲にしてできあがったものであり、それを忘れ、都合が悪いことがあれば目を背けるのがアメリカンドリームだからだ。

「国民の自由と平等」 を掲げるアメリカだが、建国時にはこの 「平等な国民」 に黒人奴隷や女性は含まれていなかった。 それに、アメリカの初期の富は、 黒人奴隷を所有物として消費することで産みだされたものだ。 「美しい芝生がある家や隣人との和やかな交流」 というアメリカらしさも、その歴史の上に積み上げられたものであり、アメリカの歴史は、「国民の平等」 といったイノセントな嘘をいくつも夢に書きかえてきた。

 アメリカは国民を平等に扱うはずだ。そして、国民を守る神聖な誓いをしているのが警察官だ。

 それなのに、おもちゃの銃を持っていただけの12歳の少年、武器を持っていなかった18歳の少年、路上でタバコをバラ売りしていた43歳の男性が、黒人というだけでいとも簡単に警察官に殺されている。 (ニュースサイトBuzzFeedにも最近の例が載っている)。 黒人は、少しでも疑いがある行動をしたり、言い返したりしたら、肉体を破壊される可能性があるのだ。

 だから黒人の親はわが子に、「おもちゃでも銃を持ってはいけない。フード付きのジャケットは着てはならない。警官にどんなに侮辱されても言い返してはいけない」 と教えなければならない。黒人の大統領がいても、それがアメリカの現実なのだ。

 何の罪もない18歳の黒人青年マイケル・ブラウンを殺した警官が無実になった日、アメリカの正義を信じられる恵まれた環境で育った Coates の息子は、その 「夢」 を失い、自分の部屋にこもって泣いた。

 それに胸を痛めながらも、父は息子の肩を抱いて 「大丈夫だ。心配するな」 と慰めはしなかった。

 なぜなら、彼自身が一度として 「大丈夫だ」 と信じたことがなかったからだ。

 Coatesの父親はかつて息子にこう語った。
「that this is your county, that this is your world, that this is your body, and you must find some way to live within the all of it. (これがおまえの国で、これがおまえの生きる社会で、これがおまえの身体だ。このすべての中で生きる方法をなんとかして探すんだよ)」

 そして父になったCoatesは息子にこう語る。
「the question of how one should live within a black body, within a country lost in the Dream, is the question of my life, and the pursuit of this question, I have found, ultimately answers itself. (夢に没頭している国で、黒人の肉体を持っていかに生きるべきか、という問いは、私の人生そのものへの問いかけであり、それを追求すること が、最終的には答えになるとわかった)」

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このように、著者の息子に代表される若い世代の黒人読者を想定して書かれたエッセイなのに、発売後になぜか白人読者からも高く評価され、ニューヨーク・タイムズのベストセラーになり、ついに今年の全米図書賞の候補にもなった。

 話題になったきっかけのひとつは、ノーベル文学賞受賞者トニ・モリスンの推薦文だ。モリスンが 「required reading(必読書)」 と呼んだおかげで、ツイッターでも「モリスンがそこまで褒めるなら読まなくちゃ」という感じで盛り上がった。その 中には白人読者もたくさんいた。

 この思いがけない白人フォロワーたちに、Coates は戸惑っているようだ。 The Daily Beastの取材でも次のように不思議がっている。

「I don't know why white people read what I write (なぜ白人が僕の書くものを読むのかよくわからない)」、「I didn't set out to accumulate a mass of white fans. (白人のファンを大量に集めようとして書いたわけじゃない)」

 彼が言うように、白人読者を意識した部分はないし、そもそも彼は、白人の考え方に合わせたご都合主義の表現を嫌うライターだ。散文詩的な Coates の文章を理解するのは難しいが、語っている内容は、歯に衣を着せない率直なものだ。

 アメリカは、黒人をモノとして保有し、使い、取引することで富と力を得た国であり、その歴史がアメリカの白人と黒人の間にいまだに深い溝を作っている。

 その深い溝を埋める方法を提案するでもなく、溝に橋をかけようとするオバマ大統領の手法にも賛成しない。 多くの人々の努力で達成した進歩もさほど評価しない。 そんな Coates の言葉に、「じゃあ、私にどうしろと言うのか?」 とフラストレーションを覚えたのは事実だ。

 だが、Coates は、私のためにこの本を書いたわけではない。彼は、「わかってくれ」 などとは頼んでいない。

 このエッセイは、白人が作り上げた都合のよい夢に没頭している国で、「黒人の肉体を持っていかに生きるべきか?」 という Coates 自身の人生の問いを追求する試みなのだ。

 最後まで読んでも答えが見つからないのは当たり前だ。 著者自身がまだ答えを出していないのだから。

 Coatesは、簡単な答えを読者に与えてくれるほど親切ではない。 息子にも 「dream(夢見る)」 ではなく、「struggle(あがけ)」 と語りかけている。

 そんな読者への挑発が、このエッセイの価値であり、全米図書賞候補にも選ばれた理由だろう。

http://www.newsweekjapan.jp/watanabe/2015/11/post-9.php


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渡辺由佳里

兵庫県出身。1995年から現在までアメリカのボストン近郊でビジネス講演者の夫David Meerman Scottと二人暮らし。

職歴は、助産師、日本語学校のコーディネーター、広告業、外資系医療製品製造会社勤務などさまざまで、小説を2作刊行した後、現在はエッセイ執筆、翻訳、洋書の紹介、夫の会社の雑用重役 (ちゃんとお給料をもらう仕事)などをしています。

通常は、エッセイを書いたり、翻訳をしたり、洋書のご紹介をしたり、
日本の子供に洋書の読書指導をしたりしています。

http://www.yukariwatanabe.com/





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